古来より睡眠は堕落の象徴と表現されたり、寝ている間に夢を食べてしまう妖怪「漠」や悪夢を見させる「枕返し」などが登場したり、比較的睡眠と言うのは「眠れること」が前提として語られてきたような印象もあります。そして、眠れない夜は「誰かに想いを馳せる」文学的に用いられることも多いのではないでしょうか(異論反論は認めます)
さて、厚生労働省が行った平成25年「国民健康・栄養調査」によると、「睡眠全体の質に満足できなかった」と回答した人は、男性で22.4%、女性で23%、つまり、約5人に1人は睡眠の質に不満を感じていると答えています。
また、同省が5年に1回行っている「労働者健康状況調査」によれば、「仕事や職業生活でストレスを感じている」労働者の割合は、60.9%(2012年)と年々推移しており、今や働く人の約6割は、調査時にわざわざストレスを感じていると記入するほどのストレスを感じながら仕事をしていると言えます。
さらに、そのストレスの内容を具体的に見ると、人間関係が、41.3%と最も多いようです。
とある物語で、「夢を食べる動物は人間ですよ」という言葉が登場します。
「夢を奪う=睡眠を奪う」「人=対人関係のストレス」と考えると、作品の文脈とは異なりますが、複雑に絡まった人間関係のストレスで眠れない人が多いという解釈にもつながる言葉のように考えてしまいます。
相談を受ける中でも「眠れない」という話を聴くことはとても多いです。
そして、本稿を書くにあたり「睡眠」や「眠れない」をキーワードに検索をしました。
すると、それはもうたくさんのまとめサイトなどが存在していました。
これだけたくさんの人が睡眠に困っているのだと改めて驚きました。
一口に睡眠障害といっても「もう寝る時間なのに目が冴えて眠れない」「仕事や授業中など、眠ってはいけない時なのに眠ってしまう」「途中で目が覚めてしまう」「夢をたくさん見てしまう」など、人の数ほど「眠れなさ」が存在します。
あなたの眠れなさは具体的にはどんな感じですか?
1990年にアメリカやヨーロッパ、日本、ラテンアメリカの睡眠学会が分かりやすい区分としてICSD(睡眠障害国際分類)を作成しました。
2013年版のICSD-3がありますが、一般的には2005年版のICSD-2が用いられているようです。
ICSD-2による睡眠障害の分類については、以下のように定義されています。
簡単な診断基準が設けられてはいますが、詳細については国や人種に寄っての差もあるようですので、「眠れない」にも色々な種類があると思ってください。
睡眠時なので寝言や歯ぎしりなど自分では気づかない症状もありながら、睡眠の不満につながっている可能性もあります。
検査などで詳細を計測することも可能なので、気になる方は検査を受けてみるのもいいでしょう。
睡眠障害には色々な種類がありますが、やはり「眠れない」が一番ポピュラーなところでしょう。
総務省が5年毎に実施している平成23年社会生活基本調査(http://www.stat.go.jp/library/faq/faq23/faq23e01.htm)を見ると、日本全国での睡眠時間の平均は7時間42分となっています。
この数値をどう思いましたか?5-6時間の睡眠という話を耳にすることも多いので、個人的には「案外眠れているのかな」という感想を持ちました。
しかし、OECD(経済協力開発機構)の発行しているSociety at a Glance 2009という資料で世界の睡眠時間を見ると、以下のようになっています。
フランス 8時間50分
アメリカ 8時間38分
スペイン 8時間34分
このように見ると、日本は1位のフランスと1時間も差があります。
とはいえ、フランスは睡眠障害を訴える人も増えているという話も聞くので、眠ればいいというものでもないのかもしれません。
「眠れない時に眠る方法」も検索するとたくさんヒットします。
詳細は他サイトに譲るとして、ここではポイントを整理したいと思います。
まず、眠るためには、リラックスした状態になることが大切です。
眠れない状態は、自律神経と大きな関連があります。人の自律神経には2つの種類があります。
交感神経:脳が活発に働き、興奮している状態の時に優位に立つ
副交感神経:脳の活動が穏やかになり、リラックスしている時に優位に立つ
眠れない時には、この交感神経が優位に立ち、身体が緊張していたり、気持ちが静まらない状態になっていることが多いです。
交感神経が活発になっている理由としては、日中のストレスがあげられます。
質の高い睡眠をとれずに、心身の疲労が回復されないと、日中にミスが起きやすかったり、感情的になりやすかったり、疲れやすかったり、あなたの日常生活に様々な悪影響が生じます。
そして、その結果さらに交感神経が働き、眠れないという悪循環が起こります。
とても疲れているのに、眠れない時などありませんか?
これは筋肉が疲労し緊張してこわばり、交感神経が優位になっていることから起きているとも考えられます。
つまり、眠れない時に眠るためには、「副交感神経が優位に立っているリラックスした状態になること」が必要です。
その手段はなんでもいいので、自分がリラックスできる状態を作るための手段を探してみてください。
やりすぎると、それ自体がプレッシャーになってしまうので、自分の身体の緊張感と相談しながらリラックス方法を考えてみましょう。
あとは、枕や布団など睡眠用品を自分にあったものに新調するのも、効果がある人も少なくないようです。
ただ、惰性で寝るのではなく、自分にあったものを「考えてみる」ところから始めてみて下さい。
考えすぎる節がある人は「横になるだけでも身体は休まるからもういいや」と思うのもひとつです。
横になり、ただひたすら深呼吸をするのが肌に合う人もいます。
身体が無意識に緊張しやすい人や、疲労しきっている人、脳が興奮しているようなときは、自分で意識してみても難しい場合もあります。
いくら気合を入れても、副交感神経を自由にコントロールできる人はおそらく少ないでしょう。
その場合、自分の意識では限界があるので、サプリや薬の力を借りてみることもひとつ考えてみて下さい。
市販の睡眠薬などもありますので、いきなり病院というのは、敷居が高い人はドラッグストアなどで聞いてみて下さい。
睡眠薬とは一口にいっても、効果時間により種類は色々です。
超短時間型:入眠障害向け
短時間型:入眠障害・中途覚醒向け
中時間型:中途覚醒・早朝覚醒向け
超時間型:早朝覚醒の人
睡眠薬に抵抗がある方は、「依存して、これがないともう眠れなくなるのではないか」と相談をされることもよくあります。
薬に頼らずに、リラックスを心掛けたり、日中のストレスフルな状態の改善が図れればそれがベターでしょう。
ただし、薬も使い方によっては決して有害ばかりではないでしょう。
ひとつのお答えとして、何も考えずに飲み続けることはあまりよいことではない、ということでしょう。
したがって、自分の眠れなさはどんなものなのかをまずは、理解してください。
自分がどのように眠れない状況で、その理由はどのようなことが考えられて、薬を飲むのであれば、薬を飲んだことでどのように自分に変化があったのか、毎日飲み続けた方がいいのか、朝に眠気が残っていないか、日中まで眠気は続くのか、などそのような自己観察をして、主治医と相談をしながら薬の飲み方を考えていくことを忘れないでください。
しかし、そもそもの問題を解決するにはエネルギーが必要な場合も少なくありません。
そして、そのエネルギーを十分に充電するには睡眠が大切です。
つまり、眠れない状況を解決するためには睡眠が必要という皮肉な状況にぶつかってしまうのです。
問題解決のためには、まずは眠れる時間の確保が大切なので、一時的に薬を飲んでみて、ストレスを減らすことや、なんとか日々をこなすためのエネルギーを充電するのも、ひとつの選択肢に加えてみて下さい。
あくまで、薬などは眠りやすいように力を貸してくれる対処療法の役割が中心です。
そもそも眠りにくくなった背景にはどのような原因があるのか、そこを解決につなげる方法はないのかなど考えることが大切ではないかと私は考えています。
薬に抵抗がある人はこの辺りを自分なりに振り返ってみて下さい。
一人で考えるのが難しいようでしたら、カウンセラーなど専門家と一緒に状況を整理してみてください。
睡眠の質の向上に繋がる方法については、また紹介したいと思います。
NPO法人日本オンラインカウンセリング協会 理事 中村洸太(臨床心理士)