アーティストをマネジメントするとき、なぜ「心理学」が必要なのだろうか?
それには大きな理由が3つある。
う〜んなんだかよく分からないぞ…
なぜエンターテインメントが「こころ」のビジネスなんだ?
なぜアーティストの「こころ」は取扱注意なんだ?
アーティストほど「ストレス」とは無縁の楽しそうな人生を送ってるような気がするけどな…。
確かに誰もがそう思うはず。
ところが、実際にアーティスト・マネジメントに携わった人であれば分かるはずだが、すべての問題はこの三つの理由から派生している。
これをクリアした時、アーティストに対してマネジメントが与える影響は計り知れないものになる。
実は、世間の名マネジャーや名プロデューサーは意識せずに「心理学的アプローチ」を取り入れているんだ!
と言うよりも、成功しているマネジメントの行動はすべて「心理学的なアプローチ」で説明することができる。
なぜなら、すべての作品が「こころ」の中で創作され、受け取る側の「こころ」に影響を与えるからだ。
「感情」を「動かす」という「こころ」の作用を、「感動」という言葉で私たちは表現する。
「こころ」に作用しないものは、エンターテインメントとは言えない。
だからこそ、どうしたら聴衆を魅了し「感動」を与えることができるか、これはもちろんアーティストの力量になるのだが、
それをマネジメントやプロデューサーが言語化して説明することができたとしたら、
アーティストにとって「こころ」強い武器になるのではないだろうか?
だからこそ、「こころ」の仕組みを知ることは重要なのだ。
例えばあなたがミュージシャンだとしたら、「こころ」の仕組みを知ってそれを言語化して分析してくれるマネジメントと、自分の経験と勘だけで仕事をするマネジメントがいたとしたら、どちらが心強い味方になるであろうか?
その存在感に大きな違いがでることは容易に想像できるだろう。
すべてのビジネス領域においてマーケティングという作業は、人間の「認知」と「行動」を理解するために「心理学」を研究している。
エンターテインメントの世界においては、ディズニーやハリウッド映画ではすでに「心理学」をベースにしたシナリオ制作が当たり前になっている。
ところが音楽ビジネスに関して言えば、
しかし、音楽業界では積極的に取り入れている形跡はない。
その多くが未だに、アーティストのポテンシャル任せだ。
ヒットしたアーティストのノウハウを心理学的に意味づけすることはあっても、アーティストキャリアのスタートから「心理学」を利用してその活動をサポートするという手法はあまり行われていないのが現状だ。
驚くべきことに、次から次へとヒットを飛ばすようなプロデューサーやマネジメントは自分の「勘」や「経験」を基にして成功しているのだが、その手法は無意識的でありながらも「心理学的に解明されている成功のためのプロセス」であることが多い。
もし私が「心理学」を学んでいなければ、それを言語化して説明することはできない。
かつて、自分の部下に「どのようにアーティストをマネジメントすればもっといい結果が生まれるのか?」と聞かれた時に「愛が足りない」とか「気合が足りない」というような抽象的な言葉でしか伝えることはできなかった。
最近では飲み会などの席で、「〇〇サンがやってるのは心理学的に言うとこういうことなんですよ」「ああ、そうなんだ〜全然意識してなかった〜」などという感じの会話ができるようになった。それは「心理学」を学んだから初めて言語化できるのだ。
私が本当に思うのは「心理学」を学んだプロデューサーやマネジャーがたくさん登場したとしたら、アーティストにとってどれだけ良い環境づくりをすることができるのだろうか…音楽産業もまだまだ発展の余地はあるのではないだろうか…ということだ。
だからこそ、音楽業界を志す人には「心理学」を学ぶことをお願いしたい。
もちろん法令やレコーディングについて学ぶことも必要かもしれないが、それはその方面の専門家に任せることができる。
しかし、「心理学」は、アーティストに最も身近なマネジメントにとって、24時間使えるアイテムがたくさん詰まっているのだ。
「クリエイティブであることは、それだけで精神疾患である」これはアメリカの精神医学会で本当に語られている言葉だ。
私は、クリエイティブであることイコール精神疾患であるとは思わない。なぜなら人間はすべてクリエイティブな一面を持っているからだ。
しかし、優れたアーティストの「こころ」は以下のような二つの点において普通の人よりハイスペックであることは間違いない。
「こころ」の感度が高いというのは「センスがいい」ということだ。
センスとは感じやすいということである。感覚が鋭敏だということだ。
そして聴衆はアーティストにそれを求める。なぜなら、送り手が受けてより感度が高くなければ「感動」を生むことができないからだ。
あなたは、あなたよりセンスが悪いアーティストの音楽に感動するだろうか?
あなたより感覚が鈍い人をアーティストとして認めるだろうか?
いうまでもなく彼らは私たちよりクリエイティビティが高い必要がある、私たちに見えないものが見え、聞こえないものが聞こえ、すべてをいち早く感じ取ることが求められる。
だからこそ、私たちが傷つかないことに傷つき、怒りを感じるのだ。
感度が高いラジオがノイズを拾ってしまうように、精密機械が壊れやすいように…「感度が高い」ということはそれ相応のメンテナンスも必要なのだ。
そして「こころ」のエネルギーが大きいということは、「影響力」が強いということだ。
彼らの「こころ」のエネルギーは、他人の「こころ」を一瞬にして「価値観」ごと変えてしまう力さえある。
たった一曲が、その先の人生を変えてしまうことだってできるのだ。
それほど彼らの情動のエネルギーは巨大なのだ。
だからこそ、一度そのエネルギーが暴走してしまったら、自分ではコントロールすることができない。
まるで福島第一原発のように「こころ」をメルトダウンさせ、苦しみや悲しみを背負うことになってしまう危険性をはらんでいる。
感情に溺れた時、彼らは深く傷つき、修復にも時間がかかるのだ。
だからこそ、常日頃からの「こころ」のメンテナンスが重要なのだ。
その異変に気がつくのは、アーティストの間近にいるマネジメントの仕事だと私は思う。
アーティストと言う職業は、一生「冒険」をしているようなものだ。
「成功」するという保証はどこにもない、そして「成功」しても「安定」するとは限らない。
「売れる」までは「売れない」ことで悩み、「売れたら」「売れなくなる」ことに怯える宿命を背負っている。
「売れなければ」バイトとバンドの掛け持ちで忙殺され、「売れたら」売れたでインタヴュー、プロモーション、ツアー、レコーディングと次から次へと果てのない作業が続く。
「好きなことやって飯を食っていけるなんて夢のようだ」もちろん誰もがそう思ってこの世界に飛び込んでくるのだが、楽しいことがある分、果てしなく続くピンチの連続でもあるのだ。
それはまるで、ジェットコースターが上昇した分だけ下降するように、大きい「成功」は、大きな「喪失」の危険性を伴っているのだ。
人気の絶頂にいるアーティストが、自殺をしたりドラッグに溺れたりするのは、その心的プレッシャーに耐えられなかったことの表れだ。
もちろん、彼らからしてみれば一般社会に溶け込むことのほうが「退屈」な人生であることに変わりはないが、「安定」と言う言葉と無縁の人生も常に「こころ」に負担がかかってしまうのだ。
だからこそ、我々マネジメントはアーティストのメンタル面での「環境整備」を行う必要があるのだ。
アーティスト・マネジメント成功のセオリー
アーティストの「こころ」をケアするんだ! それこそがマネジメントにしかできない仕事なんだ!
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