第1回で述べたように、「感情的になっているかどうか?」を振り返り、
エスカレートする構造があるということを理解するだけでも落ち着くことができたりして、
気分的にもラクになるのではないかと思います。
今回はさらに進めて、本格的に考えていきたいと思います。
本当はできているのにお客さんの前で、
「コイツはまだまだですから、鍛えてやってください」
なんてことを言ったりしていませんか?
ああいうのは地味に傷つくものです。
謙遜の意味もあると思いますが、
言われる方にしてみれば心に残ってしまい、忘れられないものです。
さて、ここで質問をしたいと思います。
「上手くなるとは、具体的にどういうことでしょうか?」
あなたと同じレベルでこなせるようになって欲しいのか?
Bさんと同じレベルなのか?
この数字を目指してほしいのか?
……
…
ABCDEができること、そのうちABCは絶対必要、プラスアルファでFやGもできると高評価……
理想が明確でないと、上手くなったことが判断できません。
意外と誰もが「なんとなく」とか「そろそろ一人前かな」といった
あいまいな基準で判断しているものです。
理想を明確にすることは、どんな指導を具体的にするのか?
何ができることを要求するのか?ということに絡む重要な部分です。
完全に「満足する」とまではいかなくても、
「認める」ためのゴールのイメージは必要でしょう。
たとえば「何倍も経験のあるあなたと同じレベルになること」
がゴールだとします。
これって、ちょっと指導してたどり着けるゴールでしょうか?
よほど基本的な業務内容でない限り、あり得ないことだと思います。
逆にあなたの価値とは?
という疑問さえ感じてしまいそうですね。
教える相手には「こんな場合は報告し、あなたや責任者の判断を仰ぐ」という指針を示すなどして、
あなたも高すぎる理想だったと思う部分があるならば、
「高すぎるの部分」を引き算して合格ラインを設定することも必要ではないでしょうか?
では、「上手くなる」ということの定義を明確にするために、もう1つ質問したいと思います。
「教えて上手くいった結果、あなたは何を手に入れることができますか?」
「相手が上手くなったという結果が発生した未来では、あなたは何を手に入れることができますか?」
( 状況、結果、関係性など )
・ほかの人を指導する時間ができる
・別の業務に取り掛かれるので残業が減る
・イライラが減るので職場が明るくなる
・相手との関係が良くなって、ランチを一緒に行ったりするかも?
・( 相手の売り上げが増えて )部署の売り上げが上がると思う
・1か月間クレーム無し( 1か月間毎日上手くやった )
…………
……
どんな変化が起きるのか?とも言い換えられますね。
大きな変化もあるでしょうし、ちょっとしたこともあるかもしれません。
このようなゴールをイメージし、作っておかないと、
「本当は上手くなっているのに、上手くなったと思えない」
という、おかしなことが起きてしまいます。
上手くいっていることに気づけなくなってしまうのです。
感情的にこじれて相手を否定的に見ているとしたら、
とくに気づきにくいことだと思います。
一度リハーサルをしていますから、上手くいったときに
「予想したことが起きた」と気づくことができます。
良い結果に気づけなければ、自分の指導の効果を認めることができません。
良い結果や取り組みに気づくことで、タイミングを逃さずに相手を褒め、評価する機会になることでしょう。
「あの人とおなじくらいやって欲しいんだよね」というのはよく聞く話です。
このような「Bさんと同じレベル」というモデルがあるのならば、
その差、ギャップに注目することもできます。
どんな違いがあって、成果に違いが出るのでしょうか?
比べる対象のBさんと、指導する相手のAさんにはどんな違いがあるのでしょうか?
「違い」でわかりにくいとするならば、次のように考えることもできます。
あなたは比較するBさんの「どんな部分や能力」に満足しているのでしょうか?
定期的な報告、
仕事の速さ、丁寧さ、
顧客の視点を持っている、
会社の理念や部の目標を意識して仕事ができる……
Bさんに満足できる理由を挙げていくことで、
その理由をAさんに指導できないか?と考えてみるのです。
「上手くならない」ということだけに注目すると、
自然とそれまでの失敗の数々が浮かんできます。
「それじゃダメ」「違う」という悪いこと探しの視点から離れて、
あなたがBさんに満足できる理由を整理し、
「こうしてみたらどうか?」と指導する相手に提案、指導をする。
こうすることでBさんとのギャップを埋めて、近づく道を明確に示すようにします。
これはAさんに対しての指導に役立つだけではなく、
あなたがその業務にとって重要だと思っている要素を洗い出すことにもつながることでしょう。
このようなことを意識化し、文章にすることなどによって、
今回の指導だけにとどまらず、今後ほかの人を指導するときの役にも立つはずです。
ここでも気をつけるべきポイントがあります。
AさんとBさんは、もちろん別の人格や個性を持った人間です。
だからこそ、結果に違いがあるのでしょう。
見た目や背格好から、性格、気の合う人などの人間関係
、持っている資格、得意な業務、これまでの経験……
探せばキリがないことだと思います。
このとき、指導が可能なところとは限られます。
「上の棚の品物をとるのに便利だから、身長を伸ばすように!」
こんな指示はあり得ません(笑)
これでは笑い話ですよね。
誰でも理解できます、「できっこない」って。
では、こんなのはどうでしょうか?
「営業なんだからBみたいにトークでなんとかしろよ」
「雑談が盛り上がっても意味ないよ」
「トークでなんとか??」と言われてしまうのは、
一般的にはあまりおしゃべりではないとか、話が苦手な人でしょう。
「おしゃべりになれ」と言ったつもりは無いとしても、
言われた方にしてみればおなじように聞こえるのではないでしょうか?
逆のパターン、おしゃべりな人に「雑談が??」と嫌味を言っても、
急に聞き分けがよくなって、相手の話をよく聞くスタイルに180度変わったりするでしょうか?
こうしたことはどちらもその人の性格や傾向です。
あなたは「明日から性格を変えろ」と指示されたとして、
変えることができそうですか?
顔や身長、体格を変えることは、ほぼ無理なことです。
無口やおしゃべりという傾向や、それぞれの性格なども、
おなじように変化の極めて難しいことでしょう。
変えると決意しても、常に意識し、習慣になって
だんだんと変わり身につくまでに、とても長い時間がかかります。
そこに絡む指導にならないようにする必要があると思うのです。
短所と長所は紙一重なものです。
積極的とでしゃばり、慎み深いと引っ込み思案、早いと雑、遅いと丁寧……
無口な人はたいてい聞き上手なものです。
お客様のニーズを整理して聞きつつ、足りない部分を事前に用意してある質問でポイントを掴む。
反対に、おしゃべりな人は人懐っこくて、お客様と打ち解けやすいもの。
それを活かして会話を積極的にリードし、その中でスムーズに必要なやりとりができるように、
あらかじめシナリオを作成し、脱線しないように順番などを意識してリハーサルをしてみる。
こうした変えられない個性を利用しながら活かすことの方が、
否定から指導するよりも受け入れ易いように思います。
こうした長所が上手く見つけられないならば、本人や同僚に聞いてみることもいいと思います。
「長所を活かしてみよう」というようなことを言われたら、
誰でも恥ずかしくも嬉しくなってしまうものではないでしょうか。
「上手くいった未来」もリハーサルしてみましょう。
このとき、相手の個性を否定するような指導をすると敵対関係になり易いので、味方ポジションに入れるように長所を意識してみる。