アーティストは本来頑固な人が多い。
言い換えると、自分なりのこだわりを貫き通そうとする人が多い。
人気が出たアーティストは、特にマネジメントの意見なんて聞きゃしない。
なんでも自分の思い通りにならないと気が済まない・・・・。
確かに彼らは我が強いというか、自己主張が強い。
そんなの当たり前だ、自分の意見を主張せずして何がアーティストだ。
彼らのこだわりには、それなりのこだわりがあるんだ。
とはいえ、こちらの意見も受け入れてもらいたい。
そんな時、意見を受け入れてもらうのには、ある一定の心理状態を作る必要がある。
優れた実績を残しているマネージャーやプロデューサーは、常にアーティストとの関係をこの状態で保っている。
それは・・・
それは・・・ラポールという心理状態だ。
「ラポール」とは、臨床心理やカウンセリングの現場で使われる専門用語で、フランス語で「橋をかける」という意味を持つ。
文字どおり、お互いの「こころ」に橋をかけるほどの深い信頼関係を作り上げる状態を言う。
具体的に言うと相手が疑問や批判を持つことなくこちらの言うことを受け入れる心理的つながりの状態である。
これは、カウンセラーとクライアントがセッションを行うときに必ず築く状態であり、これが築けないとセッションは深まらない。
例えば、家族、恋人、友人、気の置けない仲間との会話はなどは楽しく、そして何事もポジティブに受け容れられる。
我々は、言語非言語を通して他人とコミュニケーションを行っているが、会話の中でどこに判断の比重を置いているかというと、話の内容7% 声の調子38% そして...もっとも比重を置いているのは態度で55%である(メラビアンの法則)。
つまり、その人を受け入れていいかどうかという判断の多くを我々は非言語に頼っている。
相手が嘘をついているかどうかを判断するのは、話の整合性よりも、声の調子であり、態度である。
カウンセリングの技術の一つに「ラポールスキル」というのがある。
これはクライアントと素早くラポールを築くためのテクニックである。
これは相手に同調し、チューニングを合わせるための技術だ。
いわば、クライアントにとって話しやすい雰囲気を作るコツのようなものだ。
よく、人間は「何を言うか」ということよりも、「誰が言った」かということが重要だと言われるが、
それはその人との「ラポール」を普段から築けているかどうかということに他ならない。
ラポールは、その人の思想や、共通の価値観など目に見えないものから、
相手の見た目や、行動など、基本的に自分にどれだけ近いものを持っているかということによってその強度や結びつきは変わってくる。
例えば、同じバンドが好きというだけでも、ラポールを築くことができる。同じ趣味のある人や、
好みが合う人と一緒にいると居心地がいいものだ。同じ目標を持っている仲間たちは強力なラポールが築けている。これをチームワークという。
逆に、ふとしたことでラポールが切れてしまった場合、一緒にいることの煩わしさや居心地の悪さを感じる。
チームの場合これが原因で崩壊する。
誰にでもあるはずだ、うまくいっていた人との関係性が何かをきっかけに崩れていったことが。
ある日突然恋人との関係性がおかしくなった....。
ある出来事を境に友人との関係がうまいかなくなった....。
日本語では「信頼関係」という言葉が当てはまるかもしれないが、いうなれば「心地よい関係性」というイメージの方がしっくりくる。
「アーティストはマブダチだ」と言っていたマネジメントもいた。
そんなマネジメントは、アーティストにとって「心地よい」。
言語化せずともお互いを受け入れる関係。
ラポールの「深さ」は、伝えたいことの「深刻さ」「重大さ」の許容範囲につながる。
ラポールが「深ければ深いほど」より重要な案件を受け入れることができるのだ。
つまり、アーティストとマネジメントの関係性はこのラポールにすべて凝縮されている。
アーティストに限らず、人間関係はこのラポールの連鎖反応で出来上がっているのだ。
親と子、友人関係、上司と部下、生徒と先生、恋人同士、バンドメンバー、アーティストとマネジメント。
すべての人間の関係性はこのラポールの深い浅い、強い弱いに関わっている。
実は、バンドとファンの関係性もラポールで成り立ってるんだよ。
昔「俺たちのファンはみんなかっこいいんだ」と言ってたアーティストがいた。
ファンをリスペクトしないアーティストは、人気もすぐに陰りを見せていくものだ。
相手を尊重するということはラポールの基本だ。
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